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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7043号 判決 1966年10月18日

原告 株式会社クマイ商店

被告 中村昇男

主文

右当事者間の当庁昭和四一年(手ワ)第二一〇六号約束手形金請求事件について、当裁判所が同年七月一九日に言渡をした手形判決を認可する。

異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金四〇三、八四五円及びこれに対する昭和四一年六月二八日以降完済までの年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

一、被告は、訴外熊谷建設株式会社と共同して次の約束手形二通を振出した。

(1)  金額 九八、三三〇円

満期 昭和四一年四月三〇日

支払地及び振出地 埼玉県熊谷市

支払場所 埼玉銀行熊谷支店

振出日 昭和四〇年一一月一五日

振出人 熊谷建設株式会社・中村昇男(被告)

受取人 株式会社クマイ商店(原告)

(2)  金額 三〇五、五一五円

満期 昭和四一年五月三一日

振出日 昭和四〇年一二月一三日

その他の記載事項(1) の手形と同じ

二、受取人である原告は、右二通の手形を訴外株式会社第一銀行に対して隠れた取立委任裏書をなし、同訴外会社において更に訴外株式会社足利銀行に対して取立委任裏書をした後、順次に取戻して現にこれらを所持するものである。

三、よつて原告は被告に対し、右二通の約束手形金四〇三、八四五円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四一年六月二八日以降完済までの年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。

被告は、「主文掲記の手形判決を無効とする。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因事実に対する答弁をなさず、「被告は、本件の手形訴訟でいわゆる欠席判決を受けたものであるが、右手形訴訟の第一回期日である昭和四一年七月七日午前一一時の口頭弁論期日の呼出を受けなかつたのであるから、このように違法な訴訟手続に基いてなされた主文掲記の手形判決は無効にすべきものである。」と述べた。

理由

被告は請求原因事実を明らかに争わないのでこれを自白したものとみなされる。右事実によれば、被告は原告に対し、本件手形金四〇三、八四五円及びこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四一年六月二八日以降完済までの法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務があるものといわなければならない。

ところで被告は、被告に対して口頭弁論期日の呼出をしないでなされた主文掲記の手形判決は違法な訴訟手続に基くものであるからこれを無効にすべきであると主張する。そこで記録にあたつて検討するのに、昭和四一年六月二七日付新宿郵便局落合長崎分室配達員武内茂作成の郵便送達報告書には、被告に対し同日をもつて本件手形訴訟の第一回期日である同年七月七日一一時の口頭弁論期日呼出状が送達された旨の記載がみられるので、これによれば一応所論のような訴訟手続上の違法はなかつたものといい得る訳である。のみならず、被告が主張するように、一般的に被告に対して口頭弁論期日の呼出をしないで手形訴訟手続を施行し、民事訴訟第一四〇条第三項によつて自白を擬制して手形訴訟の判決をした場合を仮定しても、これが違法な訴訟手続に基く判決であることは明らかであるが、さればとてこれを当然無効な判決であるといわなければならないものでないことは勿論、異議申立後改めて被告に対して口頭弁論期日の適式な呼出をなし、手形訴訟手続における違法状態以前の段階に復してこれをやり直せば、あとは専ら請求の当否のみについて審理するだけで足り、その結果なすべき判決では、これが手形訴訟の判決と符合するときは、手形判決自体の成立過程に法律違背がある場合を除き、単純に手形判決を認可しなければならないのであつて、手形訴訟の訴訟手続に右のような違法があることの故をもつて手形判決を取消すべきものではないと解するのが相当である。従つて、主文掲記の手形判決自体の成立過程に違法が認められない本件では、前記のいずれの理由によつても、これを取消す必要はないことになる。

よつて、原告の請求を認容した主文掲記の手形判決を認可することとし、民事訴訟法第四五七条、第四五八条、第八九条により主文のとおり判決する。

(裁判官 小林啓二)

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